大きな葛籠(つづら)と小さな葛籠(つづら)

歯科Webマーケティング | 2014年6月26日

インタネットは黎明期から「魔法の箱」と言われてきました。

これは資本やブランド力を持たない小さな組織や個人がある日突然世界的な企業と同じように注目され、ビッグビジネスを成し得るなど今までの資本ヒエラルキーを根本から揺るがす「弱者が強者にビジネスで凌駕する。それも短期間に。」という夢の可能性を称して「魔法の箱」と呼ばれていたからです。

それもインターネットというツールを技術的にも本質的にも理解できない人たちがこぞって魔法の箱と「思い込んだり、思いこませたり」していました。

これほどインターネットが普及した今でもこの傾向は変わりません。

「魔法の箱」と呼ばれるインターネットを「インターネット業界の都合」で押しつけられてはいないか、今回は自戒の意味も含めて検証してみたいと思います。

歯科業界は「トレンドが最後に届く」場所

様々な業界がありますが、歯科業界はインターネット業界のトレンドが最も遅く届く業界です。それは医科よりもはるかに遅い傾向にあります。

理由はまた別の機会にお話ししたいと思いますが、大切な事はそれにより「他の業界で使い古された古いトレンドを使いまわされる事」にあります。

Webマーケティングの先端を行く業界で使い古されたトレンドをさも「最新のマーケティング手法」のように売り込まれてしまう事です。

やや抽象的な表現でしたのでピンと来ない方は、医院のFAXに大量の届く「SEO」「ランディングページ」という文字を見ていただければご理解いただけると思います。中小企業向けのDMでもSEOやPPC広告、ランディングページを売り込んでくる業者は随分前から絶滅しています。

最近はその言葉の前に「歯科専門」をつける事もDM業界の教科書に出ているようです。

魔法の箱=大きな葛籠(つづら)

舌切り雀という昔話をご存知でしょうか。

親切なおじいさんと、強欲なおばあさんがそれぞれ大小の葛篭を雀からもらう話です(おばあさんは強奪に近いですが)。

歯科医院もWebサイトが必須になるという風潮が出来始めた数年前に「口コミサイト」という切り口で歯科医院を会員登録させて一般患者の口コミや質問をかかせる事で、医院のPRを促進するサービスが始まりました。

ブログ等で様々な情報を発信しているあるエンジニア(あまり評判の良い人ではありません)が以下のような暴露話を公開しています。

私が見ていたものでは、歯科医院検索のポータルサイトで、歯科医院が有料会員になると目立つ場所に掲載されるようになるシステムがあった。 有料会員の歯科医院へはポータルサイト内のQandAなどの質問が優先的に紹介される仕組みになっていたが、このQandAの質問はその運営会社が一般投稿者に成りすまして作っていた。 その歯科医院に関するクチコミも作っていた。 有料会員になった歯科医院は、自分の医院への一般の質問やクチコミが増えたように錯覚する。 しかし、その質問やクチコミの原稿は運営会社が考えて書いたものだ。 そのことは当然、有料会員の歯科医院には告知されない。 そういうヤラセ投稿を量産することによって、有料会員の歯科医院の「ブランディング」を行っていた。 そういう企業でも上場できるし、現在も上場している
出典元:http://www.open.sh/entry/20140607/1402073247

このサイトに登録した歯科医院が強欲であったとは思いませんが、魔法の箱の万能性やマーケット規模の大きさ(理論的には世界中、現実的には日本中)に会費を払い続けた結果、葛籠(つづら)の中に入っていたのは「やらせ口コミサイトに掲載されている医院」という世の中からのレッテルとこの企業を上場させるための会費請求書でした。

あえて「小さな」葛篭を選ぶ

小さな葛篭とは「無欲で献身的」という意味ではありません。歯科医院のマーケット規模に合わせたコンパクトな戦術でのブランド作りを意味しています。

例えば魔法の箱には「歯科医院のホームページに日本中が誰でもアクセスする事が可能になります」などと以前はよく書いてありましたが実際に、沖縄に住む人が北海道の歯科医院に定期的に通う事はごく稀です。

「誰に対して何を伝えるか」

この点を見誤らない事が「葛篭の選択」を間違えない重要なポイントですが「大きな葛篭で失敗した方の逆の戦術」と表現すれば想像しやすいでしょうか。

例えば「日本中誰でも」という魅力的な言葉を「実際に通院している○○さん」という言葉に変えて「○○さんがどうしても欲しいと思う情報は何か」「どうすれば○○さんは喜ぶか」を淡々と発信する「一対一のWebサイト」は失敗者の真逆である「成功」に近いはずです。

小さな葛篭に入っているもの

この小さな葛篭を選択するには勇気が必要です。なぜならいつも視界には「魔法の箱」がちらついて地味な戦術を直視する事が難しいからです。

大きな葛篭を売りつけてくる輩はこれからは

  • コンテンツマーケティング
  • 患者とのエンゲージメント
  • バズマーケティング

などの「新しくて古い言葉」(この3つの用語については次回以降のメールマガジンで解説します)を駆使して言葉巧みに売り込んできます。

しかし、小さな葛篭の中には「医院のマーケットエリアで生活している人の大多数が医院の良さを深く理解し、歯科医院を選択する時に他の医院を選択肢にしない」という財宝が入っています。

この財宝を医院経営の基盤にするか、院長の自己実現にするかは小さな葛篭を持ち帰った人の自由です。

何よも小さな葛篭で歯科医院のプロモーションを実践している医院がまだまだ少ない状況ですので少ない競合の中でブランド化を推進する事が出来ます。

残念ながらトレンドや効果的な方法は「トレンドの僻地」へは正しく伝えられる事が少なくなっています。知らず知らずのうちに大きな葛篭を持たされないように、いつも本質を見極める目でPCのモニタを見つめてください。