院長解体新書(その4)

歯科Webマーケティング | 2014年6月30日

女性スタッフに好かれるマネジメントの条件

総務省が発表した平成25年の労働力調査から、男性の労働生産性の低下が顕著なことがわかります。安倍政権後も、男性の平均給与は412万円と底を打って上がる気配は一向にありません。このことは日本の産業構造が90年代以降、製造業など重厚長大な産業から情報・サービス産業主体へと変化し、男性労働力の適性から離れていった結果ではないでしょうか。取り分け「医療・介護・健康・子育てサービス」は今後最も成長が期待される分野とされ、ますますコミュニケーションや共感力の高い女性労働力が必要とされています。歯科助手ならすぐに見つかると高を括っていると、歯科衛生士に続き歯科助手や受付などの職種も採用できない医院になっていくことでしょう。採用力のない医院にならないためにも、実際に歯科医院で起こった事例を元に女性スタッフのマネジメントを考えてみます。

「はい」と返事をしたが、動かないのは何故?

歯科医院の業務改善に数多く立ち会ってきて、男性と女性ではコミュニケーションの目的が違うことに何度となく気づく経験をしてきました。毎日朝礼を行いミーティングも定期的にしているのに、何故か院内運営が上手くいかない医院があります。一方で、定期的にミーティングや朝礼をしているわけでないのに、院内の雰囲気が非常に良く、業務も滞ることなく進んでいる医院もあります。この違いはどこからくるのでしょうか?上手くいっている医院の院長とスタッフとのコミュニケーションの在り方は、その目的が、業務改善や情報収集を主体とするのではなく、院長がスタッフ自身の抱えている問題を最後までしっかりと聞き、理解し、そして「共感」することに時間をかけていることに気づきます。男性社会でのコミュニケーションの目的は、情報収集や問題解決を合理的にすることにあります。しかし、歯科で働く女性スタッフとのコミュニケーションは、合理性よりも非合理であっても双方で「共感」することを上位にしなければ、何事も進んでいかないことが、多くの医院で起きている現実です。

この事実を理解して実践していけば、院長の抱えるスタッフとのコミュニケーションの悩みは一気に解決していきます。女性スタッフが、「うちの院長は、自分の悩みを最後まで聞いてくれる」と感じることで、それが信頼となり院長が目的としている問題解決に対してスタッフは前向きな気持ちで向き合ってくれるようになります。そんな遠回りをするのか「あ~面倒臭い」と感じる向きも多いかと思いますが、このステップを踏まないと女性スタッフを動かすことは難しいのです。

例えば「はい」とは言ったけれども、なかなか動かない女性スタッフにイライラした経験がどなたもあると思います。女性に限ったことではありませんが、特に女性スタッフは、頭では院長の指示に従わなければならないことを分かっていても、気持ちがついていかないと行動に移せない傾向があります。院長は、一足飛びに問題解決のためにコミュニケーションをとるのではなく、スタッフと「共感」を得るための時間を持つことが必要です。すると、多少の理不尽さを感じる場合でも、女性スタッフは男性以上に動いてくれます。話は飛びますが、このような点からも“できない勤務医”を高コストで雇うよりも、定期管理型医院を目指して女性スタッフ中心の組織づくりをすることに、重厚長大な修復補綴の需要の低下に歯止めが効かない現在、経営の妙があるように思います。

ほめたのに、目が喜んでいないのは何故?

毎日朝礼をする医院も多くなってきました。朝礼では、当日の業務の申し渡しや前日のクレーム、ヒヤリハットの報告がされるのが一般的です。しかし、これだけではマンネリ化してきたという相談を受け、スタッフひとり一人の良い点に目を向け朝礼で名前を挙げて褒めるという金銭に頼らない報酬を提案したことがあります。ところがこのことを実践した医院からは、意に反して不評でした。スタッフを褒めた院長からは、一応は喜んでいるように振る舞っているけれども目が喜んでいないとのこと。このような院長の声を聞き、各医院でスタッフに個別聞き取りをしたところ、「私一人の力ではなく、みんなに助けてもらった結果なのに、私だけ褒められても困る」といった意見が数多く出てきました。そればかりでなく、今まで以上にがんばれとプレッシャーを受けたように感じているスタッフさえいました。権威的な男性社会やサティフィケートを医院の目立つところに貼る名誉好きな院長の多い歯科では考えられない反応でした。さらに女性スタッフと話していて感じたことは、褒められたことを謙遜しているのではなく、自分を過小評価していて自分に自信が持てていないことがわかりました。これは歯科医院で働いている女性のキャリアに根ざしている問題だと思います。どちらかと言うと過去に組織の中心的役割を担った経験が少なく、学生時代は偏差値による一元評価には適合できなかった女性が歯科医院には多く働いています。こんな経験からか、歯科で働く女性スタッフには、自分に自信を持つことができないインポスター化した人材が多くなっているように思います。そのため“褒められ嫌い”が進行して“任され嫌い”の症候も出てきています。例えば医院を組織化する過程で部署や委員会などを立ち上げ、各女性スタッフに役割分担をする時も、“任され嫌い”症候からか彼女達はとても消極的です。彼女たちに内在する消極性は自信のなさによるものもありますが、未経験者が持つ過剰な責任感の重圧に耐えられないようにも見えます。

このような女性スタッフを褒める場合も役割分担をする場合も最初に個別対応することが基本です。その上でみんなの前で行う場合は、まず全員の頑張りを認めた上で客観的な数字を示して個人を褒め、そして部署責任者にする理由を伝えることが大切です。最後に「頑張り過ぎない」ことを言い添えることを忘れないでください。

(続く)